大判例

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東京地方裁判所 昭和35年(レ)394号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実と判断〕被控訴人は本件手形の所持人として振出人たる控訴人にたいし手形金の支払を求めたところ、控訴人は本件手形は他の数通の手形と共に芳賀俊三郎に交付してその割引のあつせんを依頼したところ、芳賀は更にこれを小田孝に交付し、同月二五日までと期限をきつてその割引のあつせんを依頼した。しかし小田は本件手形を割引くことができなかつたので芳賀に返還するためこれを所持していたところ、被控訴人は小田の親戚で小田に本件手形の処分の権限のないことを承知していたにかかわらず、小田から本件手形を取得したものであるから、手形法第一六条第二項但書の規定により本件手形上の権利を取得しないと抗弁した。被控訴人は小田が親戚であることは認めたが、小田から損害金の一部支払のためには本件手形の裏書をうけたもので悪意の取得者でないと抗争した。

判決は被控訴人が小田から本件手形を裏書取得した経緯につきつぎのとおりの事実を認定した上、被控訴人代表者は本件手形の裏書当時小田が無権限であることを知らなかつたことについて、悪意であつたとはいえないけれども重大な過失があると判断し、被控訴人の請求を認容した原判決をとりけし、その請求を棄却したが、つぎのとおり説明している。曰く、

「右控訴人振出名義の約束手形は昭和三四年夏被控訴人代表者西川宮次が事故による怪我で入院治療中、同人の妻のいとこで当時被控訴人方に勤務していた小田孝が西川名義を冒用して濫発したものの一部である。ところで被控訴人は右のような小田の手形濫発の後始末のため相当の迷惑を蒙つていたので西川は小田に対して再三手形の回収を要求していたところ、昭和三五年一月三〇日頃小田から小田の振出した被控訴人名義の約束手形は藤井延衛のもとにあり、同人には小田から別の手形を渡してあるから被控訴人名義の手形は同人に返還して貰う旨の連絡を受けたので、小田と共に藤井を訪れた。その際小田は西川同席の場所で藤井に対し、小田の預けた手形三通は他から割引を依頼されて預つてきたものであるから返還して貰いたいと頼んだが、結局藤井は右手形三通を小田に返さず、不渡となつた前記被控訴人振出名義の手形を西川に返還したのみであつた。その後西川は小田からの連絡により同年二月上旬蒲田駅前の喫茶店で小田と逢い、同人から本件手形の裏書交付を受けた。その際小田は、印鑑の持合わせがなかつたので被控訴人方に置いてあつた同人の印鑑を使うようにとの趣旨で本件手形の受取人欄に自己の氏名を書き入れ、裏書欄に署名のみして西川に交付したが、本件手形入手の経過については別段の説明を加えず、訴外沢口市兵衛と一緒に真面目に働くことになり団子坂で工事を請負つたので今度は順調にゆくから被控訴人の方も埋合わせをするが、本件手形は自分のかけた損害金の一部として欲しい旨述べた。ところが西川は小田が昭和三四年秋有価証券偽造行使罪で目黒警察署に留置された事実を知つており、また小田が偽造手形を割引いた際芳賀及び沢口がこれに関係しているのではないかと疑つて、小田の行先を同人らにたずねたこともあるのに、右小田の手形取得の事情等については何ら質問もせずこれを受領してしまつた。

以上の認定事実によつては、西川が本件手形取得の際、小田が手形上の権利者でないことを知つていたものと推認することはできない。この点につき、前掲証人小田は、本件手形は芳賀に返還すべきものであることは西川と藤井のところへ行つた際同人から西川に話があり、本件手形は西川に見せ手形として貸してやつたものである旨供述し、同芳賀は、被控訴人の本件手形取得前である昭和三五年一月中旬から二月上旬まで間に西川に対し小田が本件手形及控訴人振出の他の手形を割引のため持つて行つたまま返還しないから西川からも同人に対し返還するよう諫告して欲しいと依頼した旨供述し、証人小田の証言の一部によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証には小田の右証言と同趣旨の記載があるが、右各証言及び乙第一号証の記載は前記認定の事実に照らし、たやすく信用することができず、他に被控訴人が本件手形取得の際小田が無権利者であることにつき悪意であつたものと認めるに足る証拠はない。

しかし、前記認定の事実に明らかなように、小田は西川の妻のいとこであつて、西川は小田から本件手形の交付を受けた当時、すでに自己の署名を同人に偽造され、被控訴人振出名義の約束手形を濫発されて相当の迷惑をかけられており、昭和三四年秋同人が有価証券偽造行使の罪で目黒警察署に留置された事実も知つており、また昭和三五年一月三〇日小田と共に藤井を訪ねた際には、小田が藤井に預けた手形が他から割引を依頼されて預つたものであるのに同人に返還して貰えず困却していたことも知つており、沢口なる人物についても小田の偽造手形割引きに関係していたものと疑つていたものであるから、同年二月上旬に至り、小田及び沢口について特に同人らを信用できるようになつたという事情の認められない本件の場合、被控訴人代表者西川としては小田から本件手形の裏書を受けるに際しては同人が如何なる方法で本件手形を取得したものであるかについては、一般の場合に比し、深い注意を払うべきであつて、小田に対し沢口との仕事の内容、本件手形振出人と小田らの工事との関係などを問い、同人が手形を割引の目的以外に処分する権限を有するや否やを確めることは容易であつたにも拘らず、西川は、払うべき注意を怠り、小田の云い分通り聞き流して何らの調査もしないまま本件手形を取得したものである。従つて被控訴人は本件手形取得につき重大な過失があるので、本件手形上の権利を取得しないものといわざるを得ない。」

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